第12章  ポンセットマウントの知られざる問題点


ポンセットマウントはいくつかのバリエーションがある、セクタレールの数で分けると、セクターレールが1個のものと2個のものがある。セクタレールが1個の場合は南軸が軸受けまたはピポットになっているものだ。筆者は当初1レール+1軸受け、次に1レール+1ピポット、さらに現在は2レールと変えてそれぞれの、特徴を確かめてきた。

1レール1ピポット(軸受け)方式

作りやすいうえ、構造的に無理がないからアライメントが少々狂っていても動きが極めてスムースである、初心者には特にお奨めできる。筆者は当初よりこの方式を採用し相当長期の渡って使用してきた、唯一最大の悩みは剛性が弱くなりやすいことである。南軸が1個のベアリングで支えていること、南軸が天板から上へ飛び出た構造もあって、剛性を高くすることができない。また、南軸の取り付け位置が立体的なので、わかりにくいという欠点もある。しかしこの方式はスラスト荷重による問題(下記)が発生しないし、高緯度地方ではピポットの飛び出しもなくなるから高緯度地方ではもっとも適した方式であろう。

2レール方式

1方2レールでは4個(+1)の車輪で受けるため全体がロープロファイルで剛性が高く保たれるという利点がある。精密加工が必要なセクタレールを2個つくらねばならないし、車輪も増えるのでそれぞれを正確なアライメントに組み立てるのが難しい。という欠点もある。しかしコンパクトで剛性を高くするのならこの2レール方式を採用すべきだろう。





知られざる問題点

この方式の最大の泣き所スラスト荷重にある。スラスト荷重によって生じるスラスト車輪とレール間に発生する摩擦が、セクタレールとラジアル車輪の接触を妨げる(弱める)働きをするのだ。結果、セクタレールが浮き上がり、極軸のふらつきを生じやすいのだ。これは簡単な計算で証明できる。

緯度35度(本州)の場合、スラスト荷重は、全荷重のsin(35)≒60パーセントである。これによる摩擦力はスラスト荷重の20パーセント(材質、仕上げで違うが)ほどである。1方ラジアルベアリングに押し付ける力は垂直荷重のcos(35)≒80パーセントである。もし全重量がこの点にかかるのであればラジアル車輪を押し付ける圧力は全荷重の80-60*0.2=71パーセントだから、特に問題は発生しない。

実際には、ラジアル荷重は4個の車輪に分散する、さらにスラスト受け車輪はラジアル車輪の中央に設置されるためラジアル荷重はさらに半分になる、結局ラジアル荷重は大き目に見ても全荷重の1/6程度しかならない。

一方、このスラストを受ける車輪は1箇所(例え4個のスラスト車輪を付けていても実際に働いている車輪は1個だけだ)、だからこの摩擦力はただ1箇所で発生する。故に正味のラジアル車輪を押し付ける力は、全荷重のcos(35)/6-sin(35)*0.2≒1パーセントしか残されていないことになる。これは何を意味しているか?、なんらかの拍子でレールが車輪から浮き上がってしまうと、なかなか元にもどらないということである。レールがもちあがったり、降りたりをくりかえすこともあり、極軸がふらつくやすいということを意味しているのである。いいかえればこの方式は潜在的にレールが浮き上がりやすいという大問題をかかえていることが理解できただろうか。


これは当初2レールにする時から筆者も気付いていて不安を感じていたのだが、うまい方法が浮かばず、出来るだけ大きな荷重のかかる所にスラスト車輪をつければいいだろうと考え、やってみたのだが、やはり、極軸がやや不安定である。抜本解決にはスラスト荷重を摩擦を生じないように受けられればいいのだが、簡単で確実な方法が思い浮かばない。ロッドだけではスラスト方向の移動量が大きすぎる。(これでも極軸が狂うことはないが)

対策
このままでは不完全燃焼で終わってしまう。ついに意を決して、やや面倒だか、使わなくなったセクタレールを利用して偏心カムをつくり、全スラスト荷重を受けさせることにした。(下図参照)これなら車輪の接触を阻害するような力は全く生じないはずだ。効果は劇的と言えるほどで、この改造を実施したとたん、浮き上がりや、ふらつきは全く見られなくなった。その上、剛性までも大きく向上したようにみえる。
もちろん厳密な評価は天体撮影を待たねばならないが。

2レールのポンセットマウントを自作してみたが、なんだかうまくいかない、と投げ出してしまったかた、まずこれを確かめて欲しい。


上記問題のもう1つの解決方法がある。それが1章の写真の形式(再掲)だ。北側セクターレールが2個、垂直に立ったもので、上からみるとハの字に配置されて車輪も水平に設置されている。この方式はVNSと呼ばれているようだ。向かって左(北側セクタレール)ではスラスト荷重が発生しないから、スラスト荷重が半減する、このため、上記浮き上がりが発生する危険がずっと少なくなるのである。

上記と同様な条件で計算してみよう。スラスト荷重=全荷重*1/3*sin(35)≒全荷重*0.2、ラジアル荷重を妨害する力はこれの20パーセント(摩擦係数=0.2)となる。ラジアル荷重を妨害する力=全荷重*0.2*0.2≒全荷重*0.04である。一方ラジアル荷重=全荷重*cos(35)*1/3/2≒全荷重*0.13、ゆえに、ラジアル荷重>>ラジアル荷重を妨害する力、となり、上記問題は発生しない。

特に高緯度地方ではレールや車輪の傾きがさらに大きくなるから、スラスト荷重が過大となり、上記浮き上がりの現象のためレールが持ち上がり、使えなくなる。この方法ならその心配がすくない。また構造的にも丈夫にできるので、通常のポンセットに比べ、さらに大型のドブソニアンを載せるのにも有利になる。しかし、北側レールの加工は円錐面にしなければならないから精密な仕上げ加工はかなり難しくなる。


理論上、このセクタレールは平面の円盤ではなく円錐面なのでセクターレールを真円に作っておいて少し曲げなければならない。下図参照。幸いなことに、曲げても真円なので摺り合わせはできるからある程度精度を高めることも可能だ。短時間の追尾(1hr以下)するのなら平面のままでもよく、眼視なら全く問題がないだろう。レールの精度や製作面では若干問題が残るものの、大型ドブ眼視には最適な方法であるといえよう。  


その他、セクタレールは傾斜させて設置するが、車輪との接触面だけを水平にしたやりかたで成功している例も見られる。


確かめてはいないがスラスト車輪に自在車輪(キャスター)を使うのも効果があるのではないだろうか。
成功の秘訣はスラストに起因する浮き上がる力を小さくすればいいので、この方法に限らず読者諸氏もいろいろ工夫してマイ.ポンセットを完成していただきたい。

TOP ページへ